フリーランスエンジニアの再就職は難しいのか?再就職を成功させるポイントや入社しやすい企業、再就職後の注意点について解説
フリーランスエンジニアとしての活動を終えると決断した後、考えなければならないのは今後のキャリアプランです。異職種に転職したり起業したりしない限り、ほとんどの場合は会社員エンジニアとして企業に再就職する流れになると思われますが……ここで立ちはだかるのは「フリーランスから企業に再就職するのは難しいのではないか」という懸念です。
そこで今回は、IDHフリーランス営業担当者がフリーランスエンジニアの再就職事情や再就職を成功させるポイント、再就職後の注意点などについて解説します。
【解説者プロフィール】
<IDHフリーランス営業担当:A.T>
東証一部上場の営業会社からキャリアをスタート。モバイル端末の営業、人事、商品企画部署を経験し27歳でマネージャーに。グループ会社に転籍し、人材派遣事業(子会社)を立ち上げて取締役へ就任するも、IT知識の乏しさが怖くなりシステム開発会社へ転職。SES営業と新規部署の立ち上げを経験後、アイ・ディ・エイチへ入社し、現在は営業リーダーとしてSES営業、新規開拓を行う。
目次
「会社員に戻りたい……」。フリーランスエンジニアが再就職を検討する理由とは?
2010年半ばごろから急速に増え始めたフリーランス。政府主導の働き方改革や人手不足、クラウドソーシングサービスの台頭などの後押しもあり、さまざまな職種でフリーランスに転向する人が出てきましたが、なかでも顕著だったのがエンジニアです。
IT分野の隆盛で高需要・高単価とくれば、フリーランスエンジニアが増えるのも必然だったと言えるでしょう。あれから10年近く経った現在もエンジニアのフリーランス希望者は増え続け、今やフリーランスブームを牽引しているのはエンジニアと言っても過言ではありません。
しかし、ブームの熱気の裏では企業への再就職を検討するフリーランスエンジニアが一定数いるのです。
実際、私たちのもとにも、再就職を検討しているフリーランスエンジニアからの相談がコンスタントにあり、当社SES事業の中途採用では次のような理由で応募される方が目立ちます。
フリーランスエンジニアが再就職を検討する主な理由
・収入が不安定、経済的リスク=収入の保証・補償がない
最も多い転職理由です。あるときは会社員時代の収入を大きく上回り、またあるときは会社員時代を下回ることもあり得るのがフリーランス。今後の収入にある程度の見通しがつかなければ家族形成や住宅購入などの将来設計が難しくなりますから、経済的リスクの要素を多く含むフリーランスに見切りをつけるエンジニアは以前から多いものです。
そしてもう一つ忘れてはならないのは、体調不良になった場合に収入が途絶える点です。
会社員であれば、病気や事故で働けなくなった場合に有給休暇や病気休暇を取得できます。その期間中、給与が支払われるので生活費の心配をする必要はありません。一方、フリーランスにはそのような制度がないため、働けない期間中は収入が途絶えることになります。また、フリーランスが加入する国民健康保険では傷病手当を受け取れません。
(※新型コロナウイルス感染症の感染拡大時には各自治体の判断により国民健康保険加入者にも特別に傷病手当が支給されましたが、これは例外的な措置です)
このように、フリーランスの経済的リスクには想定外の体調不良による収入ストップも含まれています。
・税金や社会保険などの事務周りの処理が面倒
毎年の確定申告をはじめ、毎月の請求書発行や契約書の確認、社会保険の支払いなど、フリーランスはこれらをすべて自分自身で行う必要があります。こうした事務周りの煩わしさに嫌気が差して再就職を検討するフリーランスエンジニアは少なくありません。
処理が複雑で難しい税金関連については税理士に依頼する手もありますが、月々の顧問料は数万円、確定申告時には別途費用がかかります。仕事が軌道に乗っているフリーランスでなければそう簡単に手が出せるものではないでしょう。
・スキルや営業力不足で案件が取れない
経験が浅いまま独立してしまったフリーランスエンジニアによく見かける理由です。
運よく案件を獲得できたとしても、スキル不足と判断されれば契約の更新はありません。コネクションがない・作る意欲やスキルがないこともネックになります。また、自分に有利な条件で案件を勝ち取る営業力がなければ”フリーランスで稼ぐ”は夢物語になってしまうでしょう。
このほか、業界・市場・社会動向の影響で突如フリーランスの首切りが始まってしまうパターンも。
・スキルの切り売りになる=新しいことに挑戦できない
クライアントに満足してもらえる一番の近道は、自分が最も得意とする言語・分野の案件に携わることです。したがって、フリーランスは今のスキルを案件ごとに切り売りする状況になります。それはつまり、他の新しいことにチャレンジしにくい、できないことにつながってしまうわけです。
ITのプロフェッショナルとして成長し続けたいエンジニアにとって、フリーランスは常に好環境であるとは限りません。企業にいるからこそ、未経験または苦手意識がある言語や分野と向き合ったり、マネージメント業務に挑戦できたりするなど、新しいことに挑戦して成長できる環境に恵まれる場合もあるのです。
すぐにフリーランスになったことを後悔するエンジニアの特徴
また、上記のような理由とは別に、独立後、早々に後悔してしまうエンジニアには次のような特徴があります。
・勢いで独立してしまった若手エンジニア
エンジニアの仕事に慣れてきた頃、「今のフリーランスブームに乗っからなければ損だ」とばかりに勢いだけで退職してしまった人は独立後、現実の厳しさに直面して後悔することが多いです。フリーランスの増加に伴いライバルも増えているので案件獲得はそう簡単ではありませんし、営業活動や事務処理などやるべきことは盛りだくさん。結局、想像以上の忙しさや将来への不安から独立後、すぐに後悔してしまうのです。
会社への不満や”稼ぐこと”への焦りによって支配された勢いによる無計画な独立は、若手エンジニアに多く見られます。
・市場感の把握が甘かった開発系エンジニア
開発系エンジニアの数はフリーランス向けの案件数より多く、個人の営業で案件を獲得するには熾烈な競争を勝ち抜かなければなりません。IT人材の需要が高い状況はここしばらく変わりませんが、同時にエンジニアの数も増えているので競争が激しくなるのは必至です。ですから、市場感(どのスキルが、どのような分野で高需要か)を把握してから独立するかどうかを判断しなければ、どれだけスキルがあっても失敗してしまうでしょう。需要が少ないところに商機があるのは稀です。
この点、インフラエンジニアについては人材より案件数が上回っており、現段階では開発系と比べると案件を獲得しやすい傾向にあります。
フリーランスエンジニアの再就職は難しい?フリーランスは職歴になる?
上記のようにさまざまな理由・事情を抱えて再就職を希望するフリーランスエンジニアですが、実際に就職活動をするとなると心配事が次々と出てくるようです。
「フリーランスの期間は職歴にならないのではないか?」「会社勤めは向いていないと判断されるのではないか?」――こういった心配がフリーランスの再就職は難しいとの情報が出回る元となっています。
フリーランスの経験は評価される傾向。特に3年以上のフリーランス経験は高評価
しかし、エンジニアを採用する側から見ると、意外にもフリーランスとして活動した経験自体はプラスに評価する企業が多い感触があります。企業という看板を持たずに個人で多くの業務に挑戦した心意気や行動力、フリーランスの経験を通して会社員でいることのメリットを理解できていることは、採用側に「甘いも酸いも経験した人だからこそ、長く・懸命に働いてくれるかもしれない」との期待を抱かせるからです。
特にフリーランスで活動した期間が3年以上ある場合は好印象。厳しいフリーランスの世界で3年間戦えたということは、それなりの技術とビジネスパーソンとしてのソフトスキルを備えている証になります。
再就職が難しくなるフリーランスエンジニアの特徴とは?
フリーランスで活動していた期間は多くの企業で職歴として評価され、高確率で再就職が可能です。この点は安心してください。
ただし、次の項目に当てはまる場合は再就職が難しくなります。
・一般的な相場よりはるかに高い給与を希望する。
・会社員になっても働く場所や就業時間は可能な限り縛られたくない。若手の教育や社内業務などにも一切かかわりたくない。
・上司や同僚とはできるだけ交流を持ちたくない。
・業務内容や仕事の進め方などはすべて自分で決めたい。自分ファースト。
再就職を検討中の皆さん、いかがでしょう。もうお気付きだと思いますが、これらは会社員エンジニアがフリーランスへ転向する主な理由でもあります。独立した当初、このようなことが実現できるとの理想を持っていたのではないでしょうか。
ところが、再就職を成功させたいのであれば、これらの多くを諦めなくてはなりません。
フリーランスエンジニアが再就職を成功させるポイント
以上から、フリーランスエンジニアが再就職を成功させるポイントは、”自由な働き人”から”組織という枠内で動ける企業人”になる意識や覚悟を応募企業にアピールできるか否かにかかっています。
これから再就職を目指して本格的に就職活動をスタートさせる方はこのことを念頭に、次に挙げる点を意識してください。
・再就職の目的を実現できる企業に応募すること
「経済的に安定したい」「○○の分野に挑戦してみたい」「早い段階でPMに挑戦したい」「案件・顧客開拓は営業担当者に任せて開発に集中したい」……など、皆さんそれぞれに再就職を目指す目的(理由)があるはずですから、それを実現できる制度・企業文化がある企業に応募しましょう。そのためには応募企業についてしっかりリサーチする必要があります。
・会社員の立場では難しい希望条件を言わないこと
面接で「何を重視して就職活動をしていますか?」「どのような働き方をしたいですか?」などと聞かれることがありますが、そのときに会社員の立場では難しい希望条件をうっかり口にしないように気を付けましょう。
「チームで動くのは苦手で。個人プレーの方が良いパフォーマンスを発揮できるタイプだと思います」「仕事で結果を出せば給与体系や就業規則には明記されていないインセンティブを受け取れますか?」「○○の技術以外の対応は厳しいです」など、このようなことを会社員の立場で強く主張するのは難しいのが実際のところですし、フリーランスに未練があると思われてしまいます。
フリーランスエンジニアが再就職しやすい企業とは?
フリーランスの経験は比較的高く評価されるので、スキルがあるエンジニアであれば再就職はそこまで難しくはありません。
特に次のような企業はフリーランスエンジニアにも門戸が広い、再就職しやすいと言えるでしょう。
・スタートアップ企業や小規模のベンチャー企業
まず挙げられるのは、知名度がそこまでないスタートアップ企業や小規模のベンチャー企業です。大手企業と比べると人材が集まりにくいため、経験者(特に3年以上の経験)であれば選考をパスできる可能性が高いでしょう。こういった企業は少ない人員で多くの仕事をこなさなければならないため、フリーランス経験者は行動力やストレス耐性の面でも高く評価されます。
また、大企業より就業ルールが自由であることが多いので、企業によってはフリーランス時代とさほど変わらない働き方を維持できることも。
ただし、成長途中にある企業は資金調達や事業拡大のために外部の人間とのかかわりが多いので、コミュニケーションスキルにあまり自信がない場合は内定をもらっても慎重に判断してください。
・SES(システムエンジニアリングサービス)企業
IT需要が続く昨今、SES企業はクライアントの依頼に応えられるエンジニアを常に求めていますから、エンジニアとしての経験自体がトータルで3年あれば選考においてもかなり優遇されるでしょう。創業間もないSES企業であればなおさらです。
ただし、「評価方法が不透明」「商流が深い」「会社からほぼ強制的にアサインされる」……このようなSES企業は給与水準が低いうえ、スキルアップしにくいため、モチベーションを維持できず短期離職につながりやすい点には注意が必要です。
なお、当社のSES事業の中途採用においてもフリーランス経験3年以上のエンジニアを高く評価しています。プロジェクトごとに業務内容や職場、必要になるスキルまで変わることもあるSESにおいて、フリーランス経験者にはこうした状況に対応できる変化耐性と実力が備わっているものと考えているからです。
フリーランス歴5年以上のエンジニアは様子見でもOK
会社員に戻ると決断した後はなるべく早く就職活動を始めることをおすすめするのですが、フリーランスエンジニアとしての活動期間が5年以上ある場合、「案件が途切れてしまったから」との理由で急いで再就職に切り替える必要はないと考えています。
フリーランスで5年以上生活できていれば、実力はあるということ。案件とのめぐり逢いにはタイミングが大きく影響しますから、ご自身に合った案件が出てくるまで少し待ってみるのも手です。
5年以上奮闘して勝ち得たフリーランスライフ。今後のライフプラン・キャリアプランを熟考した結果、「やはりフリーランスが理想」と思えるのであれば、その気持ちを大切にしてください。
会社員に戻る元フリーランスエンジニアへ送る再就職後のアドバイス
就職が決まった後は新しい職場で心機一転頑張りたいものですが、フリーランスのマインドを持ったままだと何かと苦労してしまいます。
近々会社員に戻るフリーランスエンジニアの方は入社後、次の点を心がけましょう。
・自分勝手な行動で社内調和を乱さないこと
・”会社の歯車”になる場合があることを覚悟する
・「フリーランスの世界では……」といったような”出羽守”にならないこと
・社員は所属する企業を体現する存在。取引先への態度、服装、普段から言葉遣いは社外の人間から厳しくチェックされることを忘れずに
フリーランスから会社員に戻っても、今までの経験は必ず仕事で活きてきます。
組織の一員として協調性を持って与えられた役割を全うしつつ、持ち前のスキルと知識、経験を最大限に発揮してください。新しいステージでの挑戦が、皆さんのキャリアにさらなる飛躍をもたらすことを願っています。